小額コインの廃止
ユーロの1セントと5セントコイン
(欧州中央銀行の画像を利用しました)
ヨーロッパを旅行された方は、1セントや2セントのコインを殆ど見かけないことに気づかれたでしょう。
これらのコインは、市中では殆ど流通していません。
このように、世界中には、小額コインの使用を廃止している国があります。 廃止といっても、法律による強制の場合もありますし、政府や中央銀行の強い奨励の場合もあります。
●スウェーデンの場合
スウェーデンの貨幣単位は、1クローナ=100オーレ、です。
1972年、最小額の1オーレと2オーレコインを廃止しました。 5オーレ(当時約3円)を最小コインとしたのです。
支払いのとき、金額を5オーレ単位に丸めました。 2以下は切り捨て、3〜7は5に丸め、8以上は切り上げ、というルールを作りました。 この丸め方は国民に歓迎され、その後各国に流布されたとき
「Swedish Rounding (スウェーデン丸め)」
の名がつきました。
スウェーデンではその後、
1985年 5オーレと25オーレコインを廃止 10オーレ単位の丸め(四捨五入または五捨六入)
1992年 10オーレコインを廃止 50オーレ単位の丸め(24以下は切り捨て、25〜74は50に丸め、75以上は切り上げ)
2010年 50オーレコインも廃止 1クローナ単位に丸め(49以下は切り捨て、50以上は切り上げ)
と変遷しました。
スウェーデンの50オーレコイン
2002年 3.7g 18.7mm
スウェーデンではキャッシュレス化がすすみ、市中では 「NO CASH - CARD ONLY」、「NO CASH ACCEPTED」などの看板が多くあります。 1クローナ(約12円)と2クローナコインも殆ど出回っていないそうです。
隣国の
ノルウェー
と
デンマーク
でも、ほぼ同じ経緯をたどっています。 現在、ノルウェーの最小コインは1クローナ(約12円)です。
デンマークでは、一時25オーレ単位への丸めとなっていたことがありました。 12以下は切り捨て、13〜37は25に、38〜62は50に、63〜87は75に、88以上は切上げ、というルールだったそうです。 現在の最小コインは50オーレ(約8円)です。
●ニュージーランドの場合
ニュージーランドでは、1990年、1セントと2セントコインを法定通貨から除外し、5セント(当時約5円)を最小コインとしました。 このときの丸め方は「スウェーデン丸め」を使いました。
その後、2006年に5セントコインも法定通貨から除外し、10セント(現在約7円)を最小コインとしました。 丸め方は四捨五入または五捨六入で、どの方法をとるかは当事者の裁量に任されています。
隣国の
オーストラリア
でも、1992年に1セントと2セントコインを廃止しました。
●ユーロの場合
アイルランド中央銀行作成のステッカー
(アイルランド中央銀行の画像を利用しました)
ユーロが導入されたのは2002年のことです。 このとき、1、2ユーロの他に、1、2、5、10、20、50セントのコインが発行されました。 しかし、このときから
フィンランド
では、現金での支払いを5セント(当時約6円)単位としました。 5セントへの丸め方は「スウェーデン丸め」を採用しました。 1セントと2セントのコインは法定通貨としては残りましたが、使用されることは殆どなくなりました。 これは法規制ではなく、国と中央銀行の推奨です。 この方式が現在でも続いています。
フィンランドに続いて、
2004年
オランダ
2015年
アイルランド
2018年
イタリア
2019年
ベルギー
も同じように1セントと2セントコインを廃止し、5セント(現在約6円)に丸めるようにしました。 現在ではユーロの発行元の欧州中央銀行でも検討しているそうです。
●その他
この他にも、小額コインを廃止している国は多いです。 一例をあげると、
韓国
1991年、1ウォンと5ウォンコインを廃止し、10ウォン(当時約2円、現在約0.9円)単位に丸めた。
スイス
2007年、1サンチームコインを廃止し、5サンチーム(現在約6円)単位に丸めた。
チェコ
2003年、20ヘラー以下のコインを廃止し、50ヘラー単位に丸めた。
さらに2008年、ヘラー単位のコインを廃止し、1コルナ(現在約5円)単位に丸めた。(1コルナ=100ヘラー)
シンガポール
2011年、1セントコインを廃止し、5セント(現在約4円)未満は切り捨てた。
カナダ
2013年、1セントコインを廃止し 5セント(現在約4円)単位に丸めた。
これまでの世界の状況をまとめると、
・個々の商品単位ではなく、支払い時の総額を丸める。 個々の商品の価格が $1.99 等というのは構わない。
・丸め方に法的な規則はない。 四捨五入でも切り捨てでも、支払い側と受け取り側が納得すればいい。
・現金支払いのときだけ丸める。 電子決済のときは丸めなくていい。
・小額コインも、完全には流通停止された訳ではなく、法的には使用できる国もある。(ニュージーランドなどでは例外)
・ルール変更時に、大きな便乗値上げは発生していない。
・当然ながら、小銭入れが軽くなった。
です。 いいことばかり目立ちます。 しかし、アメリカの1セント、イギリスの1ペニー、日本の1円は健在(?)です。
●日本の場合
日本では、昭和28年(1953)、円未満のすべての通貨を廃止しました。 1厘から50銭までのすべての通貨が使用停止になったのです。 このときは徹底していました。 まだわずかに残っていた50銭玉は使用禁止になり、商品の値札価格も1円以上になりました。
しかし、そのときから70年以上たっています。 当時の1円は、消費者物価指数などから計算すると現在の6〜7円に相当します。
2020年6月現在 総額4.9兆円 874億枚
右のグラフは、現在日本で流通しているコインの枚数です。
総枚数874億枚のうち1円玉が43%を占めています。 5円玉と合せると55%です。
自動販売機では、1円玉と5円玉は使えませんが、何の不都合もありません。
巷間1円玉の製造原価は1円を超えているとの話があります。 近年キャッシュレス化がすすんでいます。 コロナ騒ぎがそれに拍車をかけています。
1円玉、5円玉の廃止・・・・・鶴首しています。
2020.7.29