コインに描かれた国章


ユーロコイン
(画像 European Central Bankより)
 

ドイツの国章
1950〜

ドイツ連邦の国章
1815〜1866



神聖ローマ帝国の国旗
〜1806

上のコインは、ドイツが発行したユーロコインの表面(National Side)です。
発行した国名はありませんが、その代りに大きな鷲が描かれています。
これはドイツの国章をより簡素化したものです。
ドイツの国章は、中世の神聖ローマ帝国に遡り、双頭の鷲が単頭に変わりましたが、ドイツ民族統合の象徴として使われ続けられているものです。

ドイツ以外でも、国章またはその一部をコインのデザインとして利用している国は多くあります。
以下で、そのような例を紹介します。
ただし、歴史をたどれば中世コインの王家の紋章にまでさかのぼりますが、ここでは現代のコインの図柄として選ばれたものだけにしています。

「国章」またはそれに類するものの英語表現は、National Arms, State Arms, National Emblem, Traditional Symbol, Great Seal, Public Seal などがあります。 また、特に楯の形のものは、Coat of Arms と呼ばれています。
(国章の画像はWikipediaを利用しました)


   ● ア ジ ア
アフガニスタンアルメニアイエーメンイスラエルインド
インドネシアウズベキスタンオマーンカザフスタンカタール
韓国北朝鮮キプロスキリギスタンクウェート
サウジアラビアジョージアシリアシンガポールスリランカ
タジキスタン中国トルコバーレーンバングラデシュ
フィリピンブータンブルネイベトナムマレーシア
モルディブモンゴルラオスレバノン

インド

インドの国章は、紀元前3世紀にアショーカ王が建立した「獅子柱頭」です。
円柱の冠板の上に4頭の獅子が描かれています。
台座の下には、ヒンディー語で सत्यमेव जयते(真実のみが勝利する)。

オマーン

二つの交差した剣の上に、オマーン伝統の短剣ハンジャールをあしらったもの。
18世紀から使われているシンボルです。

北朝鮮

赤い星の下に、稲穂に囲まれた白頭山と水豊ダム。
下の赤いリボンの中は、朝鮮語で 조선민주주의인민공화국 (朝鮮民主主義人民共和国)。

サウジアラビア

椰子の木の下に二本の交差した新月刀(シミター)。
椰子の木は生長を象徴し、剣はイスラムの保護を象徴している。

シリア

国旗を縦書きにした楯を持っているのは、「クライシュ族の鷹」。
普通、鳥は左向きが多いが、この鷹は右を向いている。
下に2本の月桂樹の枝が交差。
リボン中は、الجمهورية العربية السورية(シリア・アラブ共和国)。

シンガポール

中央に赤い楯。楯の中には、白い五つの星と三日月。
楯を支えるサポータは、シンガポールを象徴するライオンと、マレーシアを象徴するトラ。
下部にマレー語で Majulah Singapura(進めシンガポール)の標語。

中国

五芒星の下に天安門。
外周は農民を象徴する稲と麦の束、下部にプロレタリアートを象徴する歯車。

トルコ

図は三日月と星。
おそらく、世界で最もシンプルなデザイン。
コインには、上の方に隠れているように見える。

バーレーン

楯は国旗を縦にしたもの。
背景は、国旗と同じ赤と白を基調にしたマント。



   ● ア フ リ カ
アンゴラウガンダウルグアイガーナカーポベルデ
ガボンガンビアギニアビサウケニヤコンゴ民主共和国
ザンビアシェラレオネジブチスーダンスワジランド
赤道ギニアセーシェルセネガルソマリアタンザニア
チュニジアトーゴナイジェリアナミビア西サハラ
ニジェールビアフラベナンマラウイマリ
モザンビーク南アフリカモーリタニアモロッコリビア
リベリアルワンダレソト

南アフリカ

上から、朝日、翼を広げたヘビクイワシ、国花(プロテア)、交差した槍と投げ棒、楯、その両側に小麦の穂、さらにそれらを覆う二本の象牙。
最下部にはカム語で、!IKE E: /XARRA //KE(多様な人々の団結)。

モロッコ

楯の中は、太陽、アトラス山脈、五芒星。
楯の上に国王の王冠、左右に2頭のライオン。
下部のリボンの中はコーランの一節 ينصركم إن تنصروا الله(あなたが神を助けるなら、神もあなたを助ける)。

リベリア

リベリアは、19世紀前半にアメリカ合衆国の解放奴隷たちが建国した国です。
国章の中央にあるのは、彼らが乗ってきた19世紀の帆船。
周囲には、建国を象徴する太陽、平和を象徴するハト、繁栄を象徴するヤシ、労働を象徴する鋤とジャベル。
最上部に国の標語 The love of liberty brought us here(自由への熱愛が我々をここに導いた)。



   ● ヨ ー ロ ッ パ
アイスランドアイルランドアンドライギリスウクライナ
エストニアオーストリアオランダサンマリノスイス
スウェーデンスペインスロバキアセルビアチェコ
デンマークドイツナゴルノカラバフノルウェーハンガリー
フィンランドベラルーシベルギーボスニアヘルツェゴビナポーランド
ポルトガルマルタモナコモルドバユーゴスラビア
ラトビアリトアニアリヒテンシュタインルーマニアロシア

(画像 European Central Bankより)

アイルランド

2000年以上前、大陸にいたケルト人(ガリア人)の一派がブリテン島にやってきた。
彼らは幾つかの王国を作って栄えていたが、ローマに敗れ衰退する。
しかし、彼らの文化はアイルランドなどに生き残った。 その一つがこの竪琴(ケルティック・ハープ)。






イギリス

どちらも1ポンド銅貨です。
上のコインには、国章の全体が描かれていますが、下のコインは、国章の中央部の楯の部分だけが描かれています。

楯の上に「聖エドワード王冠」、楯を支えるのは、左にイングランドの象徴のライオン、右にスコットランドの象徴のユニコーン。
ユニコーンは危険な動物のため、鎖につながれているところが面白い。

中央の楯は、4つの紋章。 左上と右下は、イングランド王室紋、右上はスコットランドの紋、左下はアイランドの紋。

オランダ

オランダの国章というより、国王の個人的な紋章。
コインには、その中の王冠と楯のみが描かれている。
楯の中は、剣と7本の矢を持つ金色のライオン。

スウェーデン

スウェーデンのコインにも、国章を簡略化した紋章(「小紋章」とよばれている)が描かれてている。
国章の中の楯のデザインが、小紋章では少し簡略化されている。

スペイン

楯は6つの家の家紋から構成されている。
左上カスティーリャ王家、右上レオン王家、左下アラゴン王家、右下ナバラ王家、下グラナダ王家、中央アンジュー家。
楯の両側は、ジブラルタル海峡の「ヘラクレスの柱」。
スペインのかつての貨幣単位にEscudoというのがありましたが、これは「楯」を意味します。

デンマーク

楯の中は、王冠を被った3頭のライオンと9つのハートマーク。
コインでは、楯が丸く描かれている。
なお、貨幣単位のKrone(複数形Kroner)は、デンマーク語で「王冠」のこと。

ハンガリー

ハンガリーは、1990年に社会主義的な国章を廃し、ハンガリー王国時代の国章を復活させた。
右側は、赤地に銀の二重十字(総主教十字)からなる伝統的なハンガリー王国の紋章。
左側は、赤地に銀の四本縞の13世紀のアールバード王家の紋章。

ルーマニア

基調となる色は、赤青黄の3色。
鷲がくちばしにくわえているのは、ルーマニア正教の十字架。
右足でつかんでいるのはモルダビアを象徴する「シュテファン大公の剣」、左足でつかんでいるのはワラキアを象徴する「ミハイ勇敢公の職杖」。
楯には5つの紋が描かれており、ルーマニアの5つの地域を象徴している。



   ● 南 北 ア メ リ カ
アルゼンチンアルバエクアドルエルサルバドルガイアナ
キューバグアテマラコスタリカジャマイカスリナム
ドミニカ共和国トリニダードトバゴニカラグアハイチパナマ
バハマパラグアイバルバドスベネズエラベリーズ
ペルーボリビアホンジュラスメキシコ

キューバ

1906年に制定されて以来、キューバ革命後もそのまま使用されている。
上部の鍵は「メキシコ湾」の鍵。
左部の3つの青い縞は、キューバの3つの地域の象徴。
右部には、国の木のロイヤル・パルム。

ニカラグァ

三角形は平等を意味している。
内部に、平和の象徴の虹、自由を象徴するフリジア帽、中米5カ国を象徴する5つの火山。

パナマ

4本の旗の上に楯が重ねられ、楯の上には翼を広げた鷲と10個の州を象徴する10個の星が描かれている(2014年までは9つだった)。
楯の中央に描かれているのは「パナマ運河」。

メキシコ

アステカ帝国建国の際、「サボテンの上で蛇を食べている鷲がいる土地を都にしろ」との神託があったとの伝説があります。
幕末に日本経済を混乱させたメキシコドルも、このデザインでした。



   ● オ セ ア ニ ア
オーストラリアキリバスサモア独立国ソロモン諸島ナウル
ニウエバヌアツパプアニューギニアフィジーマーシャル諸島

オーストラリア

上に連邦を表す七稜星、中央楯には6つの州の記章、
楯の左右は前進しかしない二つの動物、カンガルーとエミュー。
背景は国花のワトル。
まるで絨毯のような国章です。





日本

日本には、法で定めた国章というものはありません。
皇室ご紋の「十六八重表菊(じゅうろくやえおもてぎく)」がその代わりをしています。
戦後、このご紋が通常コインに登場することはありませんでしたが、記念コインには時折登場しています。

右のコインは、平成3年に発行された「天皇陛下御即位記念10万円金貨」です。 コインの中央にこの紋章が描かれています。
ただし、下に貼られているシールに描かれているのは、これを簡略化した「十六一重(ひとえ)表菊」です。




 2020.4.3 (コロナ騒ぎの中で)