コインの上下

アメリカの25セント
海外に旅行された方は、一部の外国ではコインの上下が表と裏で逆さまになっていることに気がつかれたこともおありでしょう。
日本のコインは、表と裏で上下が一致しているのに対して、例えばアメリカのコインは真逆になっています。
日本人から見れば、真逆になっているのは理解しがたいですが、コインを親指と人差し指で挟み、素直に裏返すと上下が反転します。逆になっているのが自然だと考える人もいます。
上下が一致しているのを「メダル・アラインメント」、逆転しているのを「コイン・アラインメント」と呼ぶこともあります。
カタログによっては、この区別を記述しているのもあり、例えば ”Coins of England"では、「die axis ↑↑」「die axis ↑↓」のように表記しています。

歴史上はどうなっていたか調べてみました。
以下の説明で、上下が一致しているのを「正方向」、逆転しているのを「逆方向」と呼ぶことにします。
(ただし、とぼしい私の収蔵品で検証していますので、間違いがあるかもしれませんが、ご容赦を。)

●古代ヨーロッパ
古代ギリシャ人、フェニキア人、ローマ人のコインは正方向でも逆方向でもありません。 方向に規則性はありません。 古代人は方向には無関心だったようです。
古代ローマのデナリウス銀貨 左から、カエサル、アウグスツス帝、トラヤヌス帝 ⇒が図柄の上方向


ササン朝ペルシャの銀貨 ⇒が図柄の上方向

最初に方向を意識したのは、3〜7世紀のササン朝ペルシャでしょう。 しかし、その方向は正方向でも逆方向でもありません。 表と裏が90度回転しているのです。 すべてのコインがそうなのです。 その理由はよく分かりません。

●中世〜近代ヨーロッパ
中世のヨーロッパでは、コインは当初手で打つコイン(ハンマー・コイン)でした。 その頃は古代コインと同様、方向に規則性はありませんでした。
16〜17世紀に機械打ち(ミル・マネー)になり、方向を意識するようになりました。
もっともドイツ、ロシアなどは正方向でしたが、フランス、イタリアなどは逆方向でした。 イギリスは、最初は逆方向でしたが、17世紀中頃から正方向のコインも作られ始め、19世紀後半になると完全に正方向になりました。
イギリスのコイン 左から、エリザベス1世(1570年)、ジョージ3世(1797年)、ビクトリア女王(1897年) ⇒が図柄の上方向


50銭銀貨(左が表)
(図版は「日本貨幣カタログ」を利用しました)
5銭白銅貨(左が表)
(同左)
●古代〜近代アジア
近世までの東アジアのコインは、鋳造方式で作られていました。 表側と裏側の鋳型を作り、その間に溶けた銅を流し込むのです。 上と下を強く意識しますので正方向になったのは自然です。
しかし、明治時代に日本が発行したコインの多くは、逆方向になっていました。

スイスの1/2フラン
1981年までは逆方向だった
(図版はSwiss National Bankを利用しました)
●現代世界
現代の主な国のコインを調べてみました。
面白いのはスイスです。 高額コインは逆方向、低額コインは正方向でしたが、1982年に共に正方向に統一されました。
オランダも正方向、逆方向の両方が混在していました。
また、北朝鮮は正方向なのに、韓国は逆方向です。 なぜなんでしょうね。
ユーロ諸国が正方向に統一されてからは、逆方向派はかなり劣勢になっているようです。

地域正方向逆方向
アジア日本、中国、台湾、北朝鮮、フィリピン、インド、
パキスタン、サウジアラビア
韓国、タイ、トルコ
アフリカエジプト、エチオピア、南アフリカチュニジア、モロッコ
ヨーロッパユーロ、イギリス、スイス、北欧、ロシアなど殆どの国。
(ユーロになる直前)(ドイツ、オーストリア、ギリシャ)(フランス、イタリア、スペイン、ポルトガル)
南北アメリカカナダアメリカ、メキシコ、ブラジル、アルゼンチン
オセアニアオーストラリア、ニュージーランド

 2018.12.1