大学の入試問題にコインのことが取り上げられるのはよくあることです。
江戸時代の小判の品位の変化を説明させる経済史の問題は、毎年のようにどこかの大学の入試問題でとりあげられています。
しかし、中にはコイン収集家が作成したのではないかと思われる、マニアックな問題もあります。
2007年の中京大学の入試問題です。
問題文中の赤字のコインは、右に画像を出していますが、入試問題にはなかったものです。
[TX] ヨーロッパの硬貨(コイン)に関する次の文章を読んで、下線(1)から(12)についての設問に答えよ。
-
2002年にEUでは統一通貨ユーロが流通を開始し、貿易や投資、旅行などで両替する面倒がなくなった。一方で伝統的なフランやマルクといった貨幣単位が消滅したことに対して、ユーロ導入前後には抵抗感を持つ国民も少なくなかった。実際ヨーロッパ諸国の紙幣や硬貨は、それぞれの国の長い歴史を反映したデザインをもち、注意深く観察することでそこから興味深い歴史的・文化的なメッセージを受け取ることができたのである。日本では天皇の肖像が硬貨に描かれたことはないが、ヨーロッパでは国王の肖像がすべての額面の硬貨に共通して刻印してあることが少なくない。イギリスでは国王の肖像は右向きと左向きを交代して使用する慣例があり、現国王のエリザベス2世
は右向きだが、その前のジョージ6世
は左向き、エドワード8世は治世が短すぎて硬貨は発行されず、ジョージ5世
は左向き、エドワード7世
は右向きだった。同じ肖像は(3)イギリス国王を元首とする国の硬貨でも使われている。
旧西ドイツでは、肖像入りの2マルク硬貨を全部で7種発行したが、記念硬貨でもないのに国王以外の同時代の人物が硬貨の表面を飾るのはかなり珍しく、戦後ヨーロッパではほかにスペインのフランコ総統の例があるくらいである。その7人とは、マックス・プランク(戦前の物理学者)、[ 甲 ](首相)、ホイス(西ドイツ初代大統領)、シューマッハー(社会民主党議長)、[ 乙 ](首相)、フランツ・ヨゼフ・シュトラウス(蔵相)、[ 丙 ](首相)である。プランク以外はすべて戦後西ドイツの政治家で、故人となってすぐに発行が開始されたものであり、ヒトラーで失敗した国の、戦後民主政治の成果に対する強い自負を感じさせる。
歴史上の人物が描かれた硬貨も多いが、ほとんどは記念硬貨である。通常流通している硬貨に限ってみると、ユーロ導入前の1980年代にギリシャで使われていたものが充実していた。5ドラクマ貨はアリストテレス
、10ドラクマ貨はデモクリトス
、20ドラクマ貨はペリクレス、50ドラクマ貨はソロンの、それぞれ横顔が描かれていたのである。
ユーロ硬貨の表面
は共通でヨーロッパの地図が描かれているが、裏面は各国がそれぞれ独自のデザインを採用している。ただし、どの国で発行された硬貨でも、ユーロ圏のほかの国で使用できる。ベネルクス3国のように国家元首の肖像が使われている国もあるが、世界史上の文化人も(8)写真1から3のようにいくつか登場している。
日本の硬貨にはすべて「日本国」と書かれているが、民族問題の微妙がヨーロッパには事情が異なる国もある。広く知られているように、スイスでは4つの言語を話す人々がいるので、国名はラテン語でスイスの古い呼称の HELVETIA が使われている。ベルギーでは国名を、北部で使用されているフラマン語で表記(BELGIE)した硬貨と、南部で使用されているワロン語で表記(BELGIQUE)した硬貨が、全く同数発行されていた。分裂する前の旧ユーゴスラヴィアでは、4ケ国語で通貨単位のディナールやパラが表示されていた。そのうち(11)2つがローマ字、2つがキリル文字で、複雑な民族事情がしのばれる。
日本では昭和24年発行の5円硬貨が、書体が途中変更になったものの、今日まで同じデザインで発行されている。政治経済上の変動が少なく、特に激しいインフレーションに見舞われていない国では、必然性がないために同じデザインの硬貨が発行され続ける。スイスの10サンチーム硬貨は、途中材質の変更があったものの、1879年以来同じ図柄のものが発行され続けている。スイスは当面EU加盟を見送っているだけに、この記録はまだ続きそうである。
|
|
|
写真1
| 写真2
| 写真3
|
(上の画像はEuropean Central Bankの画像を利用しました)
|
問3 2006年現在イギリス国王を元首としていない国は以下のうちどれか。
(ア)南アフリカ (イ)カナダ (ウ)オーストラリア (エ)ニュージーランド
問8 写真1、2、3はそれぞれオーストリア1ユーロ貨、スペイン50ユーロセント貨、イタリア2ユーロ貨であり、それぞれ各国を代表する歴史上の文化人の肖像が描かれている。
写真1、2、3の人物名を正しく答えているものを、以下より選べ。
(ア) 1:モーツアルト 2:セルバンテス 3:ダンテ
(イ) 1:モーツアルト 2:レンブラント 3:ダンテ
(ウ) 1:バッハ 2:セルバンテス 3:レオナルド・ダ・ヴィンチ
(エ) 1:バッハ 2:レンブラント 3:ダンテ
問11 ローマ字とキリル文字で表記される、旧ユーゴスラヴィアの言語の組み合わせとして正しいものを以下より選べ。
(ア) ローマ字:クロアティア語、セルビア語 キリル文字:スロヴェニア語、マケドニア語
(イ) ローマ字:クロアティア語、マケドニア語 キリル文字:スロヴェニア語、セルビア語
(ウ) ローマ字:マケドニア語、セルビア語 キリル文字:スロヴェニア語、クロアティア語
(エ) ローマ字:クロアティア語、スロベニア語 キリル文字:セルビア語、マケドニア語
(他の設問は、コインとは関係が小さいため省略しました)
|
|
|
エリザベス2世
ジョージ6世
ジョージ5世
エドワード7世
ユーロ硬貨の表面
旧ユーゴスラビアのコイン
上 DINARA(クロアチア語)
左 DINARJEV(スロヴェニア語)
右 ДИНАРИ(マケドニア語)
下 ДИНАРА(セルビア語)
スイスの10サンチーム硬貨
1879年発行
|