『古代ローマの肖像』

ジョン・カナリー著、桑木野幸治訳、『古代ローマの肖像−ルネサンスの古銭収集と芸術文化』、白水社、2012年6月10日発行
この本は、16世紀のルネサンス期のヨーロッパで発生した、一種異様な「古銭学」ブームについて書かれています。 著者はアメリカの人文学者です。

ヨーロッパで古銭収集がいつ始まったのかはよく知りませんが、少なくとも15世紀には古銭を収集する人がいたそうです。
そのころの王侯貴族・大商人たちは、豊富な財力で、なんでもかんでも珍しいものを集め、部屋中を飾りたてました。
異国の民芸品、古代遺物、珍獣標本などですが、古銭もそのうちのひとつです。
当時の古銭とは、ローマ共和国・帝国の古銭が主で、ギリシャ系の古銭は、オスマントルコのせいで入手があまりできませんでした。
まだ、古銭は安く、古銭の銀の重さの2倍の銀貨で購入できたそうです。
当然ながら、古銭は貨幣として使われていたものです。 収集家も古銭を物質的な財物として見ていました。

ところが、16世紀になってこの古銭ブームは意外な方向に進むことになります。
古銭を歴史の遺産としてではなく、そのデザインや銘文を自分勝手に解釈するようになったのです。
行き過ぎたブームに、硬貨偽造屋も出現し、中にはでっちあげの空想硬貨(「ゴルツィウス古銭」)を作りだした人もいました。
右の図は、ティツィアーノが描いた硬貨収集家のヤコポ・ストラーダ(1515c-1588)の肖像画です。 筆者は、この収集家を
■その華麗さ、ありあまる自信、そわそわとした落ち着きのなさ、そして無節操なまでの自己宣伝の姿態。いずれも、かれら初期の古銭学者たちにみられる特徴であった。
と酷評します。

ヤヌス神
アウグスツス帝
アントニヌス・ピウス帝
カラカラ帝
コンスタンティヌス大帝


右の図は、16世紀のジョヴァンニ・カヴィーノによる空想硬貨。
題材は、カエサルの「VINE VIDI VICI(来た見た勝った)」です。
(画像は"FORVM ANCIENT COINS"より)


2012.7.1