亀茲五銖

  
亀茲五銖 1.3g 17.9mm

「五銖銭」は紀元前2世紀の前漢の時代に始まり、6世紀の隋王朝までの700年間もの間、中華世界の基準通貨でした。
発行した王朝や時代によってさまざまな五銖銭がありますが、デザインや大きさ(約3〜4g)に大きな変化がなかったのは驚異的です。

ところが、上の「五銖銭」は大きさがその半分もなく、しかも裏面に何やら不思議な記号があります。
この銅貨は新疆のタクラマカン沙漠の北にある庫車(クチャ)で多く発掘されます。 ここは古代、シルクロードのオアシス都市「亀茲(キジ)」として栄えていた所です。 そのため、この銅貨は「亀茲五銖」と通称されています。

銅貨の表面は「五銖」の文字で、標準の「五銖銭」と同じです。
しかし、裏面には見慣れない記号が描かれています。
この不思議な記号は、古代この地で使われていたトハラ文字で、下の記号が「50」を意味すると考えられています。 とすると、上の円形の記号は銖の10分の1を意味する「(るい)」を意味しているのかもしれません。
面文の漢字と裏面のトハラ文字の二か国語で書かれていることから、中国では「漢亀二体五銖銅貨」との銘がつけられています。

古代この地は、漢民族の他、エフタル、突厥、柔然、鮮卑などの諸民族が支配権をめぐって争っていたところです。
発行者は不明です。 発行時期についても定説がありませんが、3〜7世紀のこととみられています。
どんな人たちが製作し、どんなふうに使われていたのか、想像するだけでロマンを感じます。
下の図は、5世紀後半のこの世界の地図です。 日本は万葉集の最初の歌人(雄略天皇)の頃です。

5世紀後半のシルクロード 吉川弘文館の「世界史地図」より

  2014.3.1