縁を切り取られた銀貨
Clipped Siliqua

テオドシウス帝(379-395)のシリカ銀貨
周囲がだいぶ切り取られている
1.0g 14.5mm

通常のシリカ銀貨
ユリアヌス帝(361-363)
2.1g 16.6mm
比較画像
(緑色部分が切り取られた部分)
シリカ銀貨は、ローマ帝国の末期、 コンスタンティヌス大帝(在位306−337)が発行し始めた小さな銀貨です。
通常は、2.3gの大きさがありました。
ところが、イギリス南部に多数あるローマ帝国時代の埋蔵金の中には、縁が切り取られた状態で発見されることが多いのです。
右の比較画像をご覧ください。 約半分の重さに縁がきれいに切り取られています。 Clipped Siliqua と呼ばれています。

発見されるのはイギリス南部(ブリテン)に限られています。
乱暴に切られているわけではなく、丁寧に真円状に切り取られています。

なぜ? いろんな説があって、定説がありません。
○不心得者が銀を切り取った? 不心得ものなら、もっと乱暴に切り取るのではないでしょうか。 しかし、これらは極めて丁寧に、真円に近い形に切り取られています。
○半額のコインにした? 半額のコインを作るなら、真っ二つに切ればいいのです。 実際、ローマ帝国や、中世のイギリスではそのようにしていました。
○ローマ軍が支払うときは銀貨の枚数で支払い、年貢として取り立てる時は銀貨の重さで徴収した? ローマ軍は2倍の儲けになります。
○何らかの祭礼で使った?

4世紀になると、ブリテン島のローマ軍は、東からサクソン人、西からアイルランド人に攻撃されました。 一方大陸はゲルマン人に侵略され、帝国はあてにならない状態になりました。
ついに407年、軍団司令官は自らローマ皇帝を名乗り、全軍団を引き連れてローマへ進撃しました。
残された住民は、自分たちで自治と防衛に当たらざるをえませんでした。 人々は財産を地中に埋めて隠しました。 そのような中に、このクリップされたシリカ銀貨が多く含まれています。

クリップされた時期についても、ローマ軍が引き上げる前の380〜410年という説と、その逆に、引き上げた後の410〜470年という説があります。


  2014.1.7