ケルト人の美意識



  ケルト人は、紀元前8世紀ころよりスイス、オーストリア地方に独特の文化を作りあげ、その後、
    東方ケルト人 : イステル(ダニューブ、ドナウ)川を経て、ギリシャ、トルコへ
    中央ケルト人 : フランスを経て、イベリア半島北部へ
    島のケルト人 : ブリテン島へ、その後ブルターニュ半島へ
の各地に展開した民族です。 紀元前3〜2世紀ごろが最盛期で、ローマやギリシャなどとも戦いました。
  こよなくワインを愛し、独特の美術を育てた民族でした。





リングマネー (紀元前5世紀)

本格的な貨幣を発行するまでの
代用貨幣といわれています

21.9mm 2.8g
  ケルト人は独自の貨幣をもっていませんでしたが、イステル川(現ドナウ川)下流に移動したケルト人が、文明国マケドニアに接し、マケドニアの貨幣を模倣して自分たちの貨幣をつくりました。
  ケルト人のコインは、基本的にはマケドニアの原型から発想を得ていますが、ケルトの金型細工師たちは神や馬を彼ら独自のスタイルで解釈し、具体を抽象に変形し、独自のデザインに仕上げました。
  そして、この技法は各地のケルト人に伝わり、はるか西のブリテン島(イギリス)でも同様のデザインで発行されています。

 ● 東方ケルト人のコイン (1)

 イステル川(ドナウ川)の流域のケルト人の作ったテトラドラクマ銀貨です。
 ギリシャ北部のタソスで発行されたコインの模倣貨です。 
 紀元前1世紀 16.1g 32.5mm

 ● 東方ケルト人のコイン (2)

 マケドニアのフィリッポス3世(アレクサンドロス大王の子)のテトラドラクマ銀貨の模倣貨です。
 裏面には、ΦΙΛΙΠΠΟΥ(=Philippoy)と王の名があるのですが、ケルト人は文字までデフォルメしています。
 このコインは、お椀のような形なので、カップコインと呼ばれています。
 紀元前3〜2世紀 28.6mm 15.3g

 ● 東方ケルト人のコイン (3)

 アレクサンドロス大王の銀貨の模倣貨です。
 裏は、椅子にすわり、手に鳥をかざしているゼウスです。 神、鳥、椅子がばらばらに分解され、個々に抽象化され、そして結合されています。
 紀元前3〜2世紀 17.2mm 2.5g
アレクサンドロス大王のドラクマ銀貨

 ● 東方ケルト人のコイン (4)

 フィリッポス2世(アレクサンドロス大王の父)の銀貨の模倣貨です。
 裏面は、馬上のフィリッポス2世です。 ケルト人にかかると、いかにも愉快な姿の馬に変わっています。
 紀元前3〜2世紀 14.0mm 2.4g
フィリッポス2世の1/5スタータ銀貨

 ● 中央ケルト人のコイン (1)

 フランス西南部のVolcaenのTectosages族の作ったものです。
 紀元前1世紀 2.8g 15.2mm

 ● 中央ケルト人のコイン (2)

 フランスのケルト人の青銅貨ですが、正確な発行地は不明です。
 表は人の顔、裏は馬の図が極端にデフォルメされたものです。
 紀元前1世紀? 2.9g 15.6mm
 

 ● 島のケルト人のコイン (1)

 ブリテン島西南部のドゥロトリジ(Durotriges)族の作った銀貨です。 錫の多い材質です。
 表は、ギリシャのコインの神の顔が変化したものです。
 紀元前1〜紀元1世紀 3.0g 19.3mm
東方ケルト⇒中央ケルト⇒島のケルト
(中央の画像は、WikimediaCommonsを利用しました)

 ● 島のケルト人のコイン (2)

 ブリテン島イケニ(Iceni)族の1/4スタータ金貨です。 イケニ族は、ローマと戦った最後のケルト人です。
 表はもはや完全な幾何模様です。 裏面はケルト人の馬です。 東方ケルト人のコインとは時間は100年以上、空間は2000キロ以上離れていますが、民族の嗜好は同じです。
 紀元前1世紀 11.0mm 1.1g
 


ケルト兵士のボタン
ケルトの竪琴
(アイルランドのユーロコイン)
  ケルト人たちは独自の文字を持たず、また大きな統一王国が育ちませんでした。 小さな王国がそれぞれの思いでコインを作ったので、統一した体系がありません。 しかし、デザインに奇妙な類似があるのが不思議です。

  紀元前52年、ガリアのケルト人を結集したウェルキンゲトリクスがローマと争いますが、遂にアレシアでカエサルに降伏しました。
  紀元61年、ブリタニアのイケニ族の女王ボウディッカがローマ帝国に最後の抵抗を試みましたが、敗れました。
  ローマに敗れて勢力をなくしたケルト人は、その後ゲルマン人の侵攻などで殆ど姿を消してしまいました。
  現在わずかにアイルランド、ウェールズ、ブルターニュなどに少数民族として文化を受け継いでいる人たちがいます。

参考文献
 @バリー・カンリフ、「図説ケルト文化誌」、原書房、1998
 A鶴岡真弓、松村一男、「図説ケルトの歴史」、河出書房新社、1999
 BBrowsing Ancient Coinage of Celtic
 Cジョー・クリブ、「ビジュアル博物館・貨幣」、同朋社、1999

2002.4.28  2002.11.9 改訂  2006.12.10 大改訂  2007.6.4 追加