漢の白金三品


● 「白金三品」の登場
白金三品の模倣鉛銭
直径59mm 高さ12mm 厚さ6〜7mm 重さ118g
  司馬遷の『史記平準書』によると、漢の武帝のころ、匈奴との戦、黄河の堤防建設、運河建設などに出費がかさみ、さらに元狩3年(紀元前120年)、山東地方での大水害がそれに追い討ちをかけ、帝国の財政は窮乏し、黎民重困す、の情勢になりました。
  現代なら国債の発行となることでしょうが、 是の時、禁苑に白き鹿あり、而して少府に銀・錫多し、 に着目した官吏(御史大夫・張湯)から、幣制改革の進言がありました。
  まず、白鹿の皮に刺繍を施した「皮幣」をつくりました。
 ■乃ち白き鹿の皮の方尺を以て、縁どるに藻繢を以てして、皮幣と為す。直(値)四十万なり。王侯・宗室、朝勤聘享には、必ず皮幣を以て璧に薦き、然る后行うを得。
    藻繢(そうき) ・・ きれいな刺繍
    朝勤(ちょうきん) ・・ 定期的に行われた宮中参内
    聘享(へいきょう) ・・ 諸侯や王国間の使節の送迎に贈り物をすること
    璧に薦き(へきにしき) ・・ (この皮幣を)献上・贈答用の宝玉の下に敷く

  次に、白金の3種類の貨幣を作成しました。円形、長方形、楕円形の大型の貨幣です。これらを「白金三品」と呼びます。
 ■又た、銀・錫を造ぜて白金を為る。以為えらく、「天の用は竜に如くはなく、地の用は馬に如くはなく、人の用は亀に如くはなし」と。故に白金は三品あり。
  其の一に曰く、重さ八両にして、これを圜(円形)にし、其の文は竜。名づけて白選と曰う。直三千。
三銖銅貨
22.8mm 2.6g
  二に曰く、重さ差(やや)小にして、此れを方(長方形)にし、其の文は馬。直五百。
  三に曰く、復た小にして、これを楕(楕円形)にし、其の文は亀。直三百。
  画像で掲載した品は、直三千の白金貨の模倣貨といわれているものです。 分厚いお椀の様で、表(凸側)は竜の図(とてもそうは見えませんが)、裏は環状に文字らしいものがあります。

  さらに銅貨では、これまでの半両銭を廃して、三銖銭を作りました。面文は、重さと同じ「三銖」としました。 1両=24銖=約16グラムです。
 ■県官をして半両銭をつぶして、更めて三銖銭を鋳しむ。文は其の重さの如くす。


● ギリシャ文字?
パルティアのテトラドラクマ銀貨
25.9mm 11.5g
  裏側には、外周に沿って文字らしい模様があります。 掲載の品は殆ど字が読み取れないのですが、この文字はパルティア(安息)のコインの銘文、
 ■ΒΑΣΙΛΕΩ ΒΑΣΙΛΕΩΝ ΑΡΣΑΚΟV ΕΠΙΦΑΝΟVΣ ΦΙΛΕΛΛΗΝΟΣ
  (王中の王、アルサケスの、現人神、ギリシャを愛す)
に似ているという説もあります。 文字が鮮明なものをみても、そのように読むのはかなり苦しいです。 しかし、これがギリシャ文字に最もよく似ていることは確かで、ギリシャ文字にあまり詳しくない人が、単なる模様として借用したように感じ取られます。
  とはいっても、中華思想の主が、西方の文字を貨幣に使用するとは、不思議なことです。
  漢は苦しい財政の中、この後も対匈奴戦を続けざるを得ず、霍去病、衛青、李陵らが活躍していたのはまさにこのころです。
  また、張騫が西域に行ったのは、前139〜126年のことです。 張騫の西域行とこの白金三品を関連づける説もあります。

● 「白金三品」の退場
  皮幣は当初から人気がありませんでした。 なにしろ価数千の玉の下に価四十万の皮幣を敷くのですから、本末相かなわず(本末転倒)です。
  白金三品や、三銖銭の後を受けた「五銖銭」には贋金造りが多く、死罪になった官民が数百万にもなったといわれています。
 ■諸もろの金銭を盗鋳せば、罪は皆死。而も吏民の白金を盗鋳する者、げて数うべからず。
  現在、白金三品の本物といわれるものは、全く発見されていないそうです。
  画像の品も、白金ではなく、鉛製。 当時の贋金か、もっと後世の作品かは識別できません。
  贋金が多かったということは、価格に相当する銀が含まれていない名目貨幣だったということで、もしかすると、画像のような鉛銭を政府が発行していたのではないか、と勘ぐりたくなります。
  五銖銭は贋金が造りにくいように改良されましたが、白金三品の方は人気がなく、ついに元鼎二年(前115年)、
 ■白金、ようややすく、民、宝用せず。県官、令を以てこれを禁ずるも、益なし。歳余にして、白金、終に廃し行われず。
  白金三品はわずか5年の寿命でした。 (一方、「五銖銭」はその後700年以上、中華世界の標準貨幣でした)
  
参考文献:
  @田中謙二・一海知義、「史記・漢武編」、朝日新聞社、1966
  A山田勝芳、「貨幣の古代史」、朝日選書、2000
  B野平哲也、「白金三品の中の円形竜文幣と思われる鉛餅」、『収集』2001.7
  C平野さんのホームページ 「中国古銭」 の中の 「五銖銭私考」
  D党順民、「外文鉛餅についての新たな探索」、『収集』1995.12

2004.9.19